楽曲解説

・横山真男 Autumn leaves dancing in the wind
2020年の秋、とあるコンクールに向けてヴィオラのソロ曲を書くという機会があった。さて、どんな曲を書こうか。秋といえば…と考えていたら、あのジャズの名曲『枯葉』がパッと浮かんだ。うすら寒い曇天の晩秋。風がひゅーっと吹けば、カラカラカラ……と落ち葉が地面を転がり飛んでいく。そんな印象を音にした。結局のところ、出来上がった曲はそのジャズの名曲とは全く無関係なものになった。憂いのある短い前奏に続き、速いリズミカルな変拍子と技巧的なピツィカートやフラジオレットが目まぐるしく絡む、4分ほどの短くも難易度の高い曲である。後半のパッセージは『黄金比調弦による弦楽四重奏のためのバガテル』(2020)が元になっている。なお、本作品は米国ノースカロライナで行われたヴィオラ・ソサイエティの作曲コンクールで本選に入選したが、結局演奏されず本日やっと日の目を見ることとなった。

・小坂直敏 日の出-フルート、ヴィオラ、ピアノのための
 本作品は1988年に制作し社内のサークルの場では発表したが、対外的には今回が初めての演奏となり、初演とした。
10代の頃、家には床の間に掛け軸があり、地域で著名な書家の書や絵画が四季折々に模様を変えていた。母親がそれぞれの作品についてありがたい蘊蓄を並べていたが、ひとつ説明された覚えのない画があった。それは,海の上に赤々と登る日の出のズームアップされた画である。たぶん中國の画のテーマとしては定番で、その画も特に解説されなかったことを思うと安価で入手したものであろう。
それにもかかわらずズームアップされたその太陽は印象に残り記憶にとどまっている。以上が現実体験の記憶なのか、自分自身が作りあげた偽りの記憶かは実は不明だが、作曲当時の88年以降記憶として定着した。
当初はフルート、バイオリン、ピアノのための作品であったが、もともと弦楽器は胡弓をイメージして書いたため、今回の編成でも類似楽器、という意味では共通しており楽器変更による編曲は小規模なものとした。作品は伝統的な書法で作られている。
今回の演奏の機会を与えていただいたsense of Resonanceの方々、また演奏家の皆様に深謝します。

・川田佳誠 咲き乱れる ―<桜を放つ女性>から受けた印象― フルートとピアノのための
今年の5月に福岡県に行った際に時間を余し、はてどこに行こうか?と考え始めて福岡市立美術館に足を運んだ。無料展示コーナーの最後の部屋の中に入ってすぐに彼女はいた。色彩豊かなアフリカンプリントの布をまとい、凛と銃を構えその銃口からは幾千の桜が咲き乱れていた。私は呆けた様にそれをずっと眺めていた。いや見とれてしまっていた。そう、彼女が今作のタイトル <桜を放つ女性>のモチーフとした作品である。この作品を作成したインカ・ショニバレCBE氏は女性権利の向上や異なる文化への理解。創造の力などの表現を彼女に託した。今回は更に私のフィルターを通し音楽へと変換させた。いや作らざるを得なかった。が、彼女の全てを代弁出来るほどの技量などある訳もなく全ては共有できなかった。しかしほんの僅かでも彼女の思いを伝えられる事が出来たのかなぁ

・中村滋延 オノマトペディア 第2番 ―フルート、ヴィオラ、ピアノのための音楽―
オノマトペディアとはオノマトぺ(擬声語・擬態語)とペディア(辞典・情報)を合わせた私自身による造語である。オノマトペは、本来、音声によって表現されるものを指し、この曲のような器楽作品にはあまり相応しい用語ではない。オノマトペとよく似た発想によるものにメシアンの「鳥の歌」がある。これは鳥の声を器楽によって精緻に描写したものであり、擬声語・擬態語のように想像を刺激する曖昧さはない。私の《オノマトペディア》の場合、構成素材となるテーマやモチーフを擬声語・擬態語から着想したということに主眼が置かれ、それらのテーマやモチーフを用いた“絶対音楽”である。
 ところで、オノマトペということですぐ想起されるのが、宮澤賢治の詩や童話の世界。そう、この作品は宮澤賢治に影響を受けている。特に『土神と狐』(1924〜25)という童話。賢治にはちょっとめずらしい男女間の愛憎にかかわる三角関係による悲劇が描かれている。ただし賢治のこの原作にはオノマトペそのものはあまり出てこない。ここでのオノマトペ化は私の自由な創作。雰囲気的にはフルートに狐(男)を、ヴィオラに土神(男)を、ピアノに白樺(女)を振り分けている。

・須田陽 『夜景』 1.夕暮れ 2.夜闇 3.光のモザイク
”夜の情景に合わせて、3曲の組曲となっております。1曲名の「夕暮れ」は、オレンジ色に染まる空と、そして、それを照らすオレンジ色の太陽それが徐々に沈んでいき、徐々に夜が訪れる情景を描いた作品です。2曲名に「夜闇」。これは夜の闇が深く、何も見えない、本当に何も見えないところをさまよっている情景を描いています。3曲目の「光のモザイク」は都会に夜景の様子、昼の窓から見える光が付いていたり付いていなかったりそのような情景をモザイクに例えて描いた作品です。3曲共雰囲気に違う作品となっています。”

・内田拓海 Songs Without Words
「Songs Without Words」はsense of Resonance 音楽祭 2023のために作曲した作品で、3つの小品からなっています。タイトルは日本語に訳すと「無言歌」という意味であり、文字通り言葉のない歌をイメージした楽曲です。この音楽祭で、誰もが楽しめる歌を書きたい、その思いで作曲を始めました。
1曲目は、ゆったりとしたテンポで、ヴィオラとフルートが中心となり、メロディを歌いあげる曲です。エオリアン旋法で書かれた旋律は、どこか古めかしい雰囲気を感じさせるものになっています。
2曲目は、テンポの速いスケルツォ的な楽曲。リズミカルな伴奏の上、フルートが主題を吹き始めると、ピアノ、ヴィオラと次々に受け継がれていき曲が展開していきます。楽器同士の掛け合いにご注目ください。
3曲目は、始終同じ和声進行が繰り返される中で、アルペジオ的なシンプルな旋律が演奏される曲です。三部形式で作曲されており、中間部では同主調に転調し、少しの間歌うようなメロディが演奏されます。そして、そのまま流れ込むように再現部へ繋がっていき、最後はピアノの技巧的な伴奏の元、フィナーレを迎えます。

・綿引浩太郎 秋と秌、穐とあき、すべてあき
秋と秌、穐とあき、すべてあき 
 秋を題材にして4楽章を書きました。題名は、秋を様々な字体で4回並べてあります。今作は、古典的な作曲技法を用いて、同じフレーズを様々に変化させながら繰り返すのですが、タイトルはそれを意識してのことです。様々な秋の風景を思い起こしながら、この音楽をお楽しみ頂きたいと思います。以下、国語辞典を参考にして、楽章タイトルとした秋の季語の解説をお届けします。

 第1楽章『秋雨(あきさめ)』秋雨は、9月初旬から10月頃、夏から秋へ季節が変わる時に降る雨で、暑さを和らげる雨ということで「秋霖(しゅうりん)」とも呼ばれる。
 第2楽章『初嵐(はつあらし)』初嵐は、秋の初めの強い風。畑の作物がなびくので畑嵐ともいう。
 第3楽章『芋嵐(いもあらし)』芋嵐は、芋の葉に吹き渡る強い風、強風のため白い葉裏を見せて波立っているさま。
 第4楽章『秋嵐~爽籟(しゅうらん~そうらい)』秋嵐とは、秋の山を包む靄(もや)、山にたちこめる蒸気をいう。爽籟とは、爽やかな秋の風の響きのこと。籟は笛の意。爽籟は秋風の別名となる。                      (文:綿引浩太郎)